ここでは、1923年(大正12年)6月2日に創立された阪堺電鉄株式会社の原始定款を掲載します。
原始定款で何なん?
定款は会社の組織や運営に関する根本原則を定めた書類で、会社の「憲法」とも呼ばれるよ。でも、原始って何だろ?
原始定款とは、会社設立時に作成される最初の定款ですね。
以下に定款の原文を黒字で、現代語訳したものを赤字で記しとるよぉ~。現代語訳を見たい人は、原文の該当条文をクリックしてつかぁさい。
目次
阪堺電鐵株式會社・定款 第1版1
1923年(大正12年)6月2日 制定
第一章 總則(総則)
第一條 本會社ハ阪堺電鐵株式會社ト稱ス
第1条(商号)
当会社は阪堺電鉄株式会社と称する。
第二條 本會社ハ電氣軌道ヲ敷設シ一般運輸ノ業ヲ營ムヲ以テ目的トス
前項ノ附帶事業トシテ土地家屋ノ經營、賣買、賃貸營業、土地家屋ヲ抵當トスル金錢ノ貸付娛樂機關ノ經營幷ニ必要ニ應ジ營業ニ關係アル他會社ノ事業ニ投資ヲ爲スコトヲ得
第2条(目的)
当会社は電気軌道を敷設し、一般運輸業を営むことを目的とする。
2. 前項の附帯事業は下記の通り。
①土地及び建物の経営、売買及び賃貸業
②土地及び建物を抵当とする金銭の貸付
③娯楽施設の経営
④必要に応じ、営業上、関係する他会社の事業への投資
第三條 本會社ハ本店ヲ大阪市ニ置ク
第3条(本店所在地)
当会社は本店を大阪市に置く
第四條 本會社ノ資本總額ハ金五百萬圓トス
第4条(資本金)
当会社の資本金総額は金5,000,000円とする。
第五條 本會社ノ存立時期ハ大正六拾壹年七月六日迄トス
第5条(存立期間)
当会社の継続期間は大正61年7月6日までとする。
わかっとると思うけど、大正61年は1972年、昭和47年のことじゃよぉ~。
現在では、特殊な事由がない限り、存続期間を定めることはありません。
第六條 本會社ノ公吿ハ大阪朝日新聞及大阪每日新聞ニ揭載シテ之ヲ爲ス
第6条(公告方法)
当会社の公告は大阪朝日新聞及び大阪毎日新聞に掲載して行う。
第二章 株式(株式)
第七條 本會社ノ株式ハ記名式ニシテ一株ノ金額ヲ五拾圓トシ其總數ヲ拾萬株トス但株券ハ壹株券、拾株券、五拾株及百株券ノ四種トス
第7条(株券の内容)
当会社の株式は、すべて記名式とする。
当会社の発行する株式の金額(額面)は、1株につき金50円とし、発行可能株式総数は100,000株とする。
株券は1株券、10株券、50株券、および100株券の4種類とする。
株式の額面制度は2001年(平成13年)の商法改正により、廃止されています。
第八條 株式ヲ取得シタル者ハ株券裏面ニ記名捺印ノ上本會社所定ノ書式ニ基キ讓渡人ト連署ノ請求書ヲ添エ名義書換ヲ請求スベシ
相續、遺贈又ハ法人代表者ノ交迭其他當然名義書換ヲ要スル事由アルモノハ株券ノ裏面ニ記名捺印シ本會社ニ於テ必要ト認ムル證明書ヲ添エ名義書換ヲ請求スヘシ
名義書換請求者代理人ナル時ハ其ノ代理權ヲ證スル書面ヲ添付スルコトヲ要ス
第8条(株式の名義書換)
株式を取得した者は株券裏面に記名・捺印の上、当会社所定の書式に基づく譲渡人と譲受人が連署した名義書換請求書を添付し、名義書換を請求しなければならない。
2. 相続、遺贈または法人代表者の変更、その他これに準ずる名義書換を要する事由が生じた場合には、株券裏面に記名捺印の上、当会社が必要と認める証明書類を提出して名義書換を請求しなければならない。
3. 名義書換請求者の代理人が行う時は、その代理権を証明する書面を併せて提出しなければならない。
第九條 株券ノ毀損又ハ分合ノ爲メ新株券ノ交付ヲ受ケムトスル者ハ本會社所定ノ請求書ニ舊株券ヲ添ヘ之ヲ請求スヘシ
第9条(株券の再交付)
株券が毀損または分割・併合により、新しい株券の交付を受けようとする者は、当会社所定の請求書に旧株券を添付して、請求しなければならない。
現行の会社法では、株券を発行しない会社が一般的です。
第十條 株券喪失ノ爲メ新株券ノ交付ヲ受ケムトスル者ハ其事由ヲ詳記シ二名以上ノ保證人連署ノ書面ヲ差出シ之ヲ請求スヘシ
前項ノ請求アリタルトキハ本會社ハ請求者ノ費用ヲ以テ其旨二日以上公吿シ三十日ヲ經過スルモ故障ノ申出ナキトキハ舊株券ヲ無效トシ新株券ヲ交付ス
第10条(株券喪失時の再交付)
株券を喪失したことにより、新たな株券の交付を受けようとする者は、その事由を詳しく記載し、2名以上の保証人が連署した書面を添えて、請求しなければならない。
2. 前項の請求があった場合、当会社は請求者の費用負担により、その旨を2日以上公告し、30日が経過しても異議の申出がないときは、旧株券を無効とし、新株券を交付する。
この条文は当時の商法での実務を反映しています。現在では「株券喪失登録制度」により行われています。
第十一條 新株券ノ交付ヲ請求スル者ハ手數料トシテ新株券一枚ニ付金五拾錢、名義書換其他ノ更正ヲ請求スル者ハ株券一枚ニ付金拾錢ヲ支拂フヘシ
第11条(手数料)
新株券の交付を請求する者は、その手数料として新株券1枚につき金50銭を支払わなければならない。
また、名義書換及びその他の訂正を請求する者は、株券1枚につき10銭を支払わなければならない。
現在の実務では、金額や徴収方法の内容は「株式取扱規程」等に委ねられていることが多く、定款に記載しない場合があります。
第十二條 株主及株主ノ權利ヲ行フベキ法定代理人ハ住所氏名及印鑑ヲ本會社ニ屆出ツヘシ其變ワリタルトキ亦同シ
前項株主ノ權利ヲ行フヘキ法定代理人ニ付テハ其資格ヲ證明スヘキ公正ノ書面添付ヲ要ス
第12条(株主および法定代理人の届出)
株主及びその権利を行使する法定代理人はその住所、氏名及び印鑑を当会社に届出しなければならない。また、その変更が生じた場合も同様とする。
2. 前項に定める株主の権利を行使する法定代理人については、その資格を証明する公正な書面を添付しなければならない。
第十三條 外國ニ居住ノ株主及株主ノ権利ヲ行フベキ法定代理人ハ日本帝國内ニ於テ通知ヲ受クベキ場所ヲ定メ之ヲ届出ツヘシ
第13条(国外居住株主等の通知先届出)
外国に在住する株主及び株主の権利を行使する法定代理人は日本国内に通知を受ける場所を定め、届けなければならない。
第十四條 本會社ハ株主總會其他必要ノ場合ニ於テ豫メ公吿ヲ爲シ株券ノ名義書換ヲ停止スルコトヲ得
第14条(名義書換の停止)
当会社は株主総会及びその他必要がある場合において、予め公告を行ったうえで、株券の名義書換を一時停止することができる。
現行の会社法では、株主の権利行使の基準日を定めることで、名義書換を停止せずに株主を確定することが一般的です。
第十五條 株金拂込ノ時期、方法金額等ハ取締役會ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
第15条(出資金の払込)
株金の払込の時期、方法及び金額等は取締役会の決議により定める。
第十六條 株金ノ拂込ヲ怠リタル者ハ其拂込期間終了ノ翌日ヨリ拂込當日、亦失權株式ニ付テハ競賣ニ付シ處分確定ノ當日ニ至ル迄金百圓ニ付一日金四錢ノ割合ノ遲延利息及ビ之ガ爲メニ生シタル費用其他ノ損害ヲ支拂フベキモノトス
第16条(払込遅延に対する利息および損害賠償)
株金の払込を怠った者は、その払込期間の終了日の翌日から、実際の払込日まで、または失権株式については競売に付され、処分が確定する日までの間、金100円につき1日あたり金4銭の割合による遅延利息のほか、これにより生じた費用やその他の損害を当会社に対して支払わなければならない。
第三章 役員(役員)
第十七條 本會社ニ左ノ役員ヲ置ク
取締役 七名以內
監査役 參名以內
第17条(役員の設置)
当会社は、次の役員を置く。
取締役 7名以内
監査役 3名以内
第十八條 取締役ノ互選ヲ以テ社長一名專務取締役及常務取締役各若干名ヲ置ク但專務取締役又ハ常務取締役ハ何レカ其一方ノミヲ置クコトヲ得
第18条(取締役社長、専務取締役および常務取締役)
取締役の互選により、社長1名、専務取締役および常務取締役をそれぞれ若干名選任する。
ただし、専務取締役または常務取締役のいずれか一方のみを置くことができる。
第十九條 取締役及監査役ハ本會社ノ株式貳百株以上ヲ所有スル株主中ヨリ株主總會ニ於テ之ヲ選任ス但選擧ノ結果同点者二名以上アルトキハ抽籤ヲ以テ之レヲ定ム
前項ノ選擧ニハ總會ノ決議ニ依リ指名推選法ヲ用ユルコトヲ得
第19条(取締役および監査役の選任)
取締役及び監査役は当会社の株式200株以上を保有する株主の中から、株式総会において選任する。ただし、選挙の結果、同数の得票者が2名以上いる場合は抽選によりこれを決定する。
2. 前項の選任にあたっては、株主総会の決議により指名推選法を用いることができる。
第二十條 取締役ノ任期ハ參ヶ年トシ監査役ノ任期ハ貳ヶ年トス但其任期カ定時株主總會以前ニ滿了スルトキハ該定時總會ノ集結ニ至ル迄之ヲ伸長ス
取締役カ監査役ニ提供スベキ株式ハ貳百株トス
第20条(役員の任期および提供株式)
取締役の任期は3年、監査役の任期は2年とする。ただし、任期満了が定時株主総会の開催前である場合には、その総会の終結の時まで任期を延長する。
2. 取締役が監査役に提供する株式は200株とする。
第二十一條 取締役又ハ監査役ニ缺員ヲ生シタルトキハ直ニ補缺選擧ヲ行フ但取締役三名以上監査役一名以上アルトキハ其ノ選擧ヲ延期スルコトヲ得
第21条(役員欠員時の補欠選挙)
取締役又は監査役に欠員が生じた時は、直ちに補欠選挙を行う。但し、取締役3名以上、監査役1名以上がいる時はその選挙を延期することができる。
第二十二條 前條ニ依リ選擧セラレタル補缺役員ノ任期ハ前者ノ殘任期間トス
第22条(補欠役員の任期)
前条により選任された補欠役員の任期は、前任者の残任期間とする。
第二十三條 取締役ハ取締役會ヲ組織シ業務ニ關スル重要事項ヲ決議ス
第23条(取締役会の設置および権限)
取締役は取締役会を構成し、会社の業務に関する重要事項を決議する。
第二十四條 社長ハ本會社ヲ代表ス
前項ノ代表者事故アルトキハ取締役ノ互選ヲ以テ會社代表者ヲ選定ス
第24条(会社の代表)
社長は当会社を代表する。
2. 前項の代表者に事故がある時は、取締役の互選で会社の代表者を選定する。
第二十五條 取締役及監査役ノ受クベキ報酬ハ年額金壹萬五千圓以內トス
第25条(役員の報酬)
取締役及び監査役が受ける報酬は年額15,000円以内とする。
現在では、定款には「株主総会の決議で決める」としているのがほとんどであり、現在の会社では一般的に役員報酬は株主総会で決議することになります。
第二十六條 本會社ハ必要ニ應シ取締役會ノ決議ニ依リ相談役ヲ置ク事ヲ得
第26条(相談役の設置)
当会社は必要に応じ、取締役会の決議により相談役を置くことができる。
第四章 株主總會(株主総会)
第二十七條 本會社ノ定時株主總會ハ每年四月及拾月ノ兩度ニ於テ之ヲ招集ス
第27条(定時株主総会の開催)
当会社の定時株主総会は毎年4月および10月の2回招集する。
第二十八條 株主總會ノ議長ハ社長之ニ任ス社長差支アルトキハ他ノ取締役之ニ代リ取締役總テ差支アルトキハ出席株主中ニ於テ之ヲ選擧スルモノトス
第28条(株主総会の議長)
株主総会の議長は社長がこれにあたる。
社長に支障がある時は、他の取締役が社長に代わり、取締役全員に支障がある時は出席株主の中から議長を選挙で選任するものとする。
第二十九條 株主總會ノ決議ニ際シ可否相半スルトキハ議長之ヲ決ス之レカ爲メ自己議決權ノ行使ヲ妨ケス
第29条(可否同数の場合の決定)
株主総会の決議において可否同数となったときは、議長がこれを決定する。ただし、そのために議長が自己の議決権を行使することを妨げない。
第三十條 法定代理人ヲ除ク外代理人ヲ以テ議決權ヲ行ハムトスル株主ハ其議事ニ付議決權ヲ行フコトヲ得ヘキ株主ニ委任スヘシ但其代理人ハ株主總會開會前ニ委任狀ヲ本會社ニ差出スヘシ
第30条(議決権行使の代理)
法定代理人以外の代理人によって、議決権を行使しようとする株主は、その議案に関する議決権の行使ができる他の株主に委任しなければならない。ただし、その代理人は株主総会開催前に委任状を当会社に提出しなければならない。
第三十一條 株主總會ニ於テ決議シタル事項ハ決議錄ニ記載シ議長及出席株主參名以上記名捺印スルモノトス
第31条(株主総会の議事録)
株主総会において決議された事項は、決議録に記載し、議長及び出席株主3名以上がこれに記名押印するものとする。
第五章 計算(計算)
第三十二條 本會社ノ會計年度ハ每年四月一日ニ起リ翌年三月三十一日ニ終ルモノトシ四月ヨリ九月迄ヲ上半期、十月ヨリ三月迄ヲ下半期ト爲シ貳期ニ區分計算ス
第32条(会計年度および半期区分)
当会社の会計年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終わるものとする。
会計年度は、4月から9月までを上半期、10月から翌年3月までを下半期とし、これをもって2期に区分して計算を行う。
第三十三條 本會社ハ每計算期ノ營業純益金ニ前記ノ繰越金ヲ加ヘタルモノヨリ左ノ金額ヲ控除シ其殘額ヲ株主配當金ニ充ツルモノトス但純益金中ヨリ幾分ヲ次期ニ繰越シ又ハ別途ノ積立ヲ爲スコトヲ得
一、法定準備金 純益金ノ百分ノ五以上
二、役員賞與金 純益金ノ百分ノ五以內
第33条(剰余金の配当等)
当会社は、各会計期間における営業純益金に、前期からの繰越金を加えた額から、次の各項に掲げる金額を控除し、その残額を株主配当金に充てるものとする。ただし、純益金の一部を次期に繰り越し、または別途積立金として留保することができる。
①法定準備金 純益金の5%以上
②役員賞与金 純益金の5%以内
第三十四條 株主配當金ハ每計算期末日現在ノ株主ニ之ヲ配當ス
第34条(配当の基準日)
株主配当金は、各会計期間の期末日現在における株主に対して支払うものとする。
第六章 附則(附則)
第三十五條 本會社ノ負擔ニ歸スベキ設立費用ハ金參萬圓以內トス
第35条(設立費用の負担)
当会社が負担する設立費用は、金30,000円以内とする。
第三十六條 本會社ハ第一回株金拂込ノ時ヨリ開業ニ至ル迄株金拂込金額ニ對シ年五朱ノ利息ヲ配當スルモノトス
前項ノ利息ハ雜收入ヲ以テ之ニ充テ其不足額ハ建設費中ヨリ支出スルモノトス
第36条(開業前利息の配当)
当会社は、第1回の株金払込の日から開業に至るまでの期間について、払込株金に対し年5朱(年5%)の利息を配当するものとする。
2. 前項の利息は、雑収入をもってこれに充て、不足がある場合は建設費の中から支出するものとする。
現行の会社法では、開業前利息の支払いは制度上想定されておらず、実務でもほとんど用いられません。ただし、歴史的には鉄道会社や鉱山会社など、長期の建設期間を要する企業でこのような条項が設けられていた例があります。
(完)
参考文献
- 国立公文書館所蔵,『鉄道省文書』・軌道特許・阪堺電鉄・第1巻(大正11年~昭和2年)を参照した。 ↩︎